みほとけは欠くることなき望月よ 我れと彼とは盃の月
滴塵013
本文
みほとけは欠くることなき望月よ 我れと彼とは盃の月
形式 #和歌
カテゴリ #10.精神・悟り・心象
ラベル #仏 #悟り #月 #霊性
キーワード #満月 #盃 #仏 #自己と他者 #完全性
要点
仏は満月のように欠けることなく、人は盃に映る月のように不完全であるようだが、仏である。
現代語訳
仏は欠けることのない満月のようだ。私やあなたは盃の中の酒に映る月のように、小さくて不完全なものだが、同じ月なのだ。
注釈
望月:満月。完全性の象徴。
欠くることなき望月(もちづき):満ちたまま欠けない月。永遠の真理、完全な悟りのメタファー。
盃の月:器の中の水に映る月で、欠けたり揺れたりする。仮の姿、実体がない幻影。しかし月(悟り)を宿している
解説
大宇宙を照らす仏の完全性は満月として象徴される。盃に映る月は小さく揺れ、完全ではないが、光を受け取る存在として仏とつながっている。人間は不完全ながらも、誰もが仏性を持つ。欠陥の中にも光はあるという悟りの教義を象徴的に表現。自他の相対を超えた仏の光の作用を考察させる一首。
深掘り_嵯峨
滴塵012の主題をさらに発展させた、非常に仏教的な対比の歌です。
仏の悟りは「欠けることなき望月」という永遠の真理であるのに対し、私たち人間(我れと彼と)は、盃に映った月(幻影)に過ぎない。つまり、人間が認識する世界は不完全で仮の姿であり、真実ではないという唯識(ゆいしき)や空(くう)の思想を背景に持ちます。仏との間の遠い隔たりを意識しつつ、それでもなおその幻影の中に真理を見ようとする、切実な姿勢が伺えます。