みほとけは欠くることなき望月よ 我れと彼とは盃の月
滴塵013
本文
要点
現代語訳
仏は欠けることのない満月のようだ。私やあなたは盃の中の酒に映る月のように、小さくて不完全なものだが、同じ月なのだ。 注釈
盃の月:器の中の水に映る月で、欠けたり揺れたりする。仮の姿、実体がない幻影。しかし月(悟り)を宿している 解説
深掘り_嵯峨
滴塵012の主題をさらに発展させた、非常に仏教的な対比の歌です。 仏の悟りは「欠けることなき望月」という永遠の真理であるのに対し、私たち人間(我れと彼と)は、盃に映った月(幻影)に過ぎない。つまり、人間が認識する世界は不完全で仮の姿であり、真実ではないという唯識(ゆいしき)や空(くう)の思想を背景に持ちます。仏との間の遠い隔たりを意識しつつ、それでもなおその幻影の中に真理を見ようとする、切実な姿勢が伺えます。